交通事故の治療費の一括払い制度について
1 治療費の一括払い
交通事故の被害に遭い、治療を受ける場合、治療費を支払う必要があります。
法制度上、誰かに怪我をさせられた場合には、一度、被害者が治療費を支払った上で、その治療費を損害として、加害者に対して損害賠償請求することになります。
もっとも、交通事故による負傷については、加害者側の任意保険会社が、医療機関等に対して直接治療費を支払うという扱いが取られることが多いです。
これは一括払いといわれています。
保険会社が直接治療費を支払うことにより、交通事故被害者は、経済的負担を気にすることなく、安心して治療を受けることができます。
ただし、被害者側に小さくない過失がある場合には、一括払いが取られないことがあります。
2 治療費の一括払いで問題になること
多くの場合で一括払いによる治療費が支払われることから、被害者は医療機関等に対して直接費用を支払わなくて済むため、費用の負担を不安に思うことなく治療を受けることができます。
しかしながら、一括払いは法的な制度ではないため、加害者側任意保険会社の裁量により中断されてしまいます。
本来、交通事故の加害者は、被害者の負傷が治癒するか、または症状固定となるまでの間、治療費を支払う義務を負います。
しかし、一括払いは、この治療費の先払いであるため、加害者側保険会社は、独自の基準により症状固定であると判断した時点で、治療費を打ち切ります。
症状固定については以下のように定義されています。
「傷病に対して行われる医学上一般に承認された治療方法(以下「療養」という。)をもってしても、その効果が期待し得ない状態(療養の終了)で、かつ、残存する症状が、自然的経過によって到達すると認められる最終の状態(症状の固定)に達したとき」を、症状固定といいます(昭和50年9月30日付労働省労働基準局長通達(基発第565号)より)。
症状が慢性化して、治療を継続しても劇的な回復は見込めない状態と考えてください。
なお、症状固定時期は、医師の判断が尊重されるべきであるところ、保険会社による打ち切り時期と、症状固定の時期が必ずしも一致するわけではありません。
一括払いが打ち切られてしまうと、自ら治療費を支払わなくてはならなくなるため、被害者の方は、通院を続けることに消極的になります。
その結果、痛みが残っているにもかかわらず、リハビリを中断する方も少なくありません。
3 一括払いの打ち切りに対する対策
加害者側任意保険会社は、被害者の症状、事故態様、車両の破損状況、治療の経過及び主治医の意見などをもとに、一括払いの打ち切り時期を決定します。
その際、被害者の通院頻度が少なかったり、通院に間が空いていたりすると、治療の必要性がないと判断され、早期に治療費を打ち切られてしまうことがあります。
交通事故発生後、早期に弁護士にご相談いただければ、打ち切りまでの期間の目途、早期に治療費を打ち切られないための対策についてご説明できます。
また、「保険会社の担当者が強気で話をしてくるので、どうしても自分では交渉できない」というような場合は、弁護士にご依頼することで、保険会社との交渉をお任せすることができます。